日本文学探訪35 水村美苗「続 明暗」1 津田の人間性を問題視する清子

 夏目漱石の未完小説の続きを、水村美苗が「続 明暗」として書きましたが、漱石の文体を真似して、いかにも漱石が書きそうな内容になっているという点で、画期的なものです。
 夫が元の恋人に会いに行ったことをお延が知って温泉に駆けつける展開になるという点は、大体の評論家などの一致する見方であり、私もそうだと思います。しかし、津田が清子に会いに行くことを明かしたのは「続 明暗」では吉川夫人ということになっており、その点は私は疑問に感じています。そもそも、津田に清子に会いに行くことを勧めたのが吉川夫人であり、その彼女がお延にその事実を打ち明けるでしょうか。もしそうとするなら、吉川夫人は津田夫婦の仲をもませるためにそうしたということになり、いくらなんでもそこまではしないだろうというのが私の考えです。
 しかし、なんらかの方法でお延が津田の温泉行きの意図を知ったというのはありうる話であり、お延が行ったことで、津田と清子との関係が余計複雑なものになるというのは見えています。お延が姿を現すのは、津田が清子と突っ込んだ話をしていた時という劇的な展開であり、これも漱石ならそうしたかもしれません。しかし、津田と清子が二人きりになるまで、「続 明暗」ではかなりの時間を要しています。同じ宿に泊まる四人で散歩をしたり、遠出をしたりして、二人の根本的な話し合いが出来ません。津田自身が、なぜ清子がかつて自分のもとを去ってしまったのか訊くのを先延ばししていますから、処置なしですが、読者にしたら、なかなか話が進まず、もたもたしたいらいら感が募ります。
 もっとも、漱石も読者をはぐらかす術を心得ており、水村美苗もそれを踏襲したのでしょうが。私は、津田が清子に会うぐらいから、話が急ピッチで進むのではないかと考えていますが、漱石は水村美苗のようにまだ読者に気をもたようとしたのかもしれません。お延が清子の前に現れたのをしおに、清子は津田のもとを去り、宿も引き払ってしまいますが、清子が津田に言うべきことはすでに言い尽くされてしまったかの感があります。
 要するに、清子は津田に人間的な欠陥を感じ取ったと推測されます。現に今、津田が清子を訪ねて来ていることが、彼の人間性は変わっていない証しだという意味のことを彼女は言っています。妻がいる身でありながら、人妻に会いにやってきたということ自体がそうだというわけです。

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