漫画探訪25 「ブラックジャック」5 安楽死を請け負うキリコ

 「ブラックジャック」には、キリコという人物が登場しますが、安楽死を金で請け負う医者であり、金で手術を請け負うブラックジャックと正反対の立場に立つ医者です。しかし、両者とも黒い服を身にまとっていることで、二人の反社会的なアウトローとしての人物像が浮き彫りになっているわけですし、医学の表と裏の部分を二人の姿を借りて言い表しているのでしょう。二人は言わば一心同体であり、その光と影の部分をブラックジャックとキリコの姿を通じて映し出しているのです。
キリコがこういう医者になったのは、軍医時代の原体験が大きく影響しています。戦争で手足をもがれ、腹や胸をつぶされて、それでもまだ死ねないという悲惨な状況の患者に多数接して、彼らから早く死なせて楽にしてくれと懇願され、それを見るに見かねてキリコは彼らに毒を注射してやると、彼らは「ありがとう、先生」と感謝の言葉を残して死んでいきました。
 むろん、こういうことは医者としては許されない行為であり、法律にも触れますし、殺人罪の対象にもなります。実際にそういう罪に問われた医者もいます。しかし、キリコは瀕死の患者の苦痛を和らげることが本人のためという信念を持っています。
 作品「二人の黒い医者」では、交通事故で寝たきりになった女性をブラックジャックが手術して救いますが、その女性はまたもや交通事故に遭って命を落としてしまいます。その折、ブラックジャックは次のように言います。「生き物は死ぬ時には自然に死ぬ。それを人間だけが無理に生きさせようとする。どっちが正しいかね。」
 これはキリコ自身が自分のしていることを正当化しようとしての発言ですが、キリコのしていることも自然ではなく、人為的に殺していることに変わりありませんから、彼の言うことには矛盾があります。もっとも、彼にしたら、放っておいても自然に死ぬだけですから、それを自分の手で早めてやっているに過ぎないと言うでしょうが。
 ブラックジャックはキリコに、「それでも私は人をなおす。自分が生きているために」と答えています。患者の病気を治し、命を救うのが医者としての務めだと自覚した、使命感に燃えた彼の言葉です。この女性の死は彼にとって大きなショックでしたし、前に取り上げた「されどいつわりの日々」で手術して助けたアイドルが自殺してしまった時と同じ無力感を味わったはずです。

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