古典文学探訪54 井原西鶴「世界の借家大将」1 餅は冷えてから買え

 「日本永代蔵」に載っている話であり、今、授業で扱っています。藤屋市兵衛という実在した京都の大金持ちの倹約ぶりが描かれていますが、現代にも充分通用する内容が含まれています。
 彼は借家に住む大富豪ということを自慢にしていましたが、借金の質に取っていた家が自分のものになり、それを悔しがったと言いますから、一見、おかしな話です。しかし、借家に住んでいることが彼のオリジナリティ、独自性であり、それが失われてしまったのですから、彼の残念な気持ちは分からないではありません。
 藤市の餅に関する話も印象的なものです。彼は家で餅をつくことはせず、それを買っていました。私の子供の頃もそうだったのですが、近所の裕福な家では、年末になると、家の前で一家総出で餅をぺったんぺったんついていました。むろん、私は長屋育ちですから、そういう光景を見ることしかできませんでしたが。もっとも、大きくなってから自動餅つき器を家で買って、それで餅を作っていましたが、家の中での作業であり、本来の餅つきとは大きく異なっています。
 藤市が餅を家でつかないのは、年末の忙しい時期に人手を取られるのがいやだったことと、臼や杵・蒸籠などをしまって置くのが面倒で場所を取ることからでした。藤市は方広寺大仏殿の前にあった餅屋で餅を買っていましたが、秀吉ゆかりの寺であり、大仏殿は東大寺の大仏殿を上回る世界一の木造建築物でした。この寺の鐘の銘文のごく一部が家康によって問題視され、それが大坂冬の陣・夏の陣のきっかけになったことは周知のとおりです。
 餅屋がつきたての餅を藤市の店先に持ってきますが、藤市は聞こえないふりをします。しかし、餅屋にすれば、忙しい時なので、別のところへも餅を運ばねばならず、早く餅を受け取ってほしいと催促します。藤市の店の手代が気を利かせて、その餅を買ってしまいますが、その事実を知って藤市は手代を、この家に奉公する値打ちもないものだと叱り飛ばします。二時間経った時点で、その餅の重さを量ると、随分軽くなっていましたので、手代は高い料金で餅を買っていたことになり、それを藤市は問題視したのです。
 餅は冷えてくると、水分が蒸発して、重さが軽くなってしまうのです。藤市はそのことを科学的知識で知っていたというより、経験で分かっていたのでしょう。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 13

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス ナイス
かわいい かわいい

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック