推理小説(ミステリー)探訪5 森村誠一「野生の証明」1 死体を埋めた場所をセメントなどによって特定

  かつて角川映画になった作品ですが、私は見ていません。東北のある村で村民十数名が虐殺されるという悲惨な事件が起こります。まるで「八つ墓村」のような話ですが、誰が犯人か何のためにしたのか最後のところまで分からないところが、ミステリーとしてよく出来ています。唯一の生き残りである少女を味沢という謎めいた男を引き取って育てます。この味沢の正体が誰なのか、果たして犯人なのか、最後まで明かされません。
 彼は羽代市で保険外交員をしていましたが、車が海に落ちたことによる事故死の保険金支払いに疑問を持ちます。夫である大崎が助かり妻がなくなったとされますが、妻の死体は上がって来ないままでした。羽代市では、大場一族が支配しており、警察や中戸一家と結託しており、この事故死も大崎が中戸一家の幹部であったところからきちんと捜査しませんでした。
 しかし、味沢は大崎に愛人がいることをつかみ、さらに警察に押収されていた車の中から出てきた泥に目を付け、それをジープに乗せて盗みます。警察から盗むのですから、荒っぽいやり方であり、彼が只者ではないことをうかがわせます。その中にコンクリートのかけらを発見し、専門家に分析してもらったところ、特殊なコンクリートであることがわかり、さらにこれも特殊なセメントが含まれていることも明らかになります。これらはダムや堰堤工事に使われるもので、その時、堤防工事が行われており、工事を請け負っていたのが中戸建設でした。大崎の妻の死体はそこに埋まっていると味沢は推理します。このコンクリートなどの分析も科学的なものであり、作者がよく研究し専門家のアドバイスを受けていることがわかりますが、こうたやすく埋めた場所がわかるのが、いかにも推理小説の世界という気がします。
 一つの証拠だけで場所を特定するのは強引な展開ですが、森村作品には一つの遺留品で容疑者にたどり着くという方法がよく採られており(むろん、他にも容疑者は状況的に怪しいという場合もありますし、この場合は場所の特定であり、容疑者ははっきりとしているわけですが)、あまりにも都合が良すぎるという嫌いがあります。もっとも、このあたりはミステリーの約束事として許されているのかもしれませんが、あまりに偶然が重なって調子よく話が展開していくのは、現実性に欠きます。この場合も、コンクリートやセメント以外の要素があれば、信憑性が増します。
堤防工事を請け負っていたのは中戸建設であり、また建設省によって、河川敷は大場一族のトンネル会社に不正に下げ渡され、そこをゴルフ場にするという計画があることもつかみます。
 この事件の調査には、新聞記者の越智朋子も協力します。越智の父親は新聞社を経営し、かつて大場一族の市政の不正や中戸一家と結びついた暴力事件を新聞を出すことで暴きましたが、志半ばにして、交通事故に遭って死んでしまいました。大場によって無残にも殺された形です。新聞社も大場によって乗っ取られ、大場はますますわがもの顔に振る舞います。今ではこのような独裁制を敷いている自治体はないでしょうし、あっても、事件がそのうちに明るみになり、追究の手が必ず伸びます。むろん、今なお、地縁や血縁で結ばれて保守的になっているところは少なくないでしょうが。
 

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