漫画探訪44 手塚治虫「火の鳥・望郷編」4 欲望に支配されたために滅亡の道をたどる星

 地球に潜入したロミとコムは人間(コムはムーパーですが)だということが分かり、警察に追いかけられますが、密入国者(その一人の顔はブラックジャックの顔をしていますが、これも手塚治虫のサービス精神の現れです。ブラックジャックがアウトロー的な存在ですから、共通項があります)に助けられ、湖と山のあるところに行きます。そこはロミが生まれ育った島のような自然に囲まれた場所であり、ロミは初めて息がつけましたが、余命いくばくもありませんでした。しかし、作者はせめて最後にヒロインに故郷に近いものを見せて安らぎを与えたかったのでしょう。
 地球連絡員の牧村は当局者にロミたちを入国させたことを罪に問われ、ロミとコムを殺せば、罪が許されると通告され、彼らを殺しに出かけます。牧村には不本意なことでしたが、そうするより他に生き延びる選択肢がなく、心を鬼にするしかありませんでした。ロミは牧村に撃たれる寸前、命が尽きますが、撃たれなかっただけがせめてもの救いと云ったらいいでしょうか。しかし、コムは牧村に撃たれてしまい、哀れな最期を遂げます。コムは水の中で岩肌に溶け込み、紫色の水草の花になりますが、伝説や民話の世界を彷彿とさせます。
 宇宙商人スダーバンはあくどい悪魔的な人物であり、平和だった星エデン17を一変させます。彼はエデン17の飲料水の中に麻薬を投げ込みますが、その麻薬は善良な人々の欲望をよみがえらせるものであり、人々は彼の思惑通り欲望のかたまりとなって、争い出します。人間の醜さや心の闇については、手塚治虫自身が、戦争体験や虫プロの倒産などでいやというほど見てきたに違いありません。順風満帆に見える作者の人生も山あり谷ありであり、そういう体験が作品に深みを与えてもいます。
 火の鳥がにせもののロミの前に現れ、人々を説得しなければこの星を滅ぼすと最後の通告をします。今まで火の鳥はロミのけなげさに打たれて、地震を止めて来ましたが、もう限界だと言います。にせもののロミはみんなに以前の姿に戻って、星を再建しようと呼びかけますが、欲望に心を支配されたみんなは聞き入れません。火の鳥が与えた最後の機会も失われたわけです。星に地震が起こり、町は滅亡します。せっかく繁栄していたこの星も、人々の欲望によって全滅してしまうという、哀れな最期です。もっとも、地震と欲望を結び付けているところに、問題を感じましたが。
 牧村はロミの遺体をエデンに運びますが、これも牧村の温情というものであり、罪滅ぼしの気持ちからでもあったのでしょう。。ロミと丈二の魂が、ここは二人だけの星だと言い合います。愛に生き試練に耐えた人々がいた、ロミという名の女のことを火の鳥は永遠に忘れないと言って、この作品は終わりますが、美しさはうかがえるものの空しさにとらわれてなりません。繁栄した星も結局は滅ぶというところに、諸行無常、栄枯盛衰などという仏教的世界観が感じられるからでしょうか。手塚治虫は人類も欲望にとらわれたらこういうことになると警鐘を鳴らしたかったのだとは思いますが。

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