日本文学探訪89 中島敦「山月記」1 デーモン小暮さんの朗読・詩で名を成せず虎に変身する主人公

 現代国語の教材として、中島敦の小説「山月記」を扱ったことがあります。授業で5時間ぐらいかかる小説ですが、漢語がたくさん入った格調の高い文章なので、それを少しでも味わってもらおうとして、朗読テープを使いました。それもロック・ボーカリストのデーモン小暮さんの朗読であり、彼の名前を出しただけで、生徒の中からどっと笑いが起こりましたが、朗読は真面目なもので、原作の味をよく出しています。かつてラジオで放送していたのを録音したもので、デーモン小暮さんの前置きも録音してあり、その中で彼は、音楽活動の他に、俳優として舞台に立ち、小説の朗読も行なっていると語っています。朗読としては、「山月記」が手始めであり、特にこの小説が気に入っていると言っています。彼が朗読し、尺八の伴奏も入って、なかなかいい雰囲気を出しており、生徒にも好評のようでした。ただ、尺八の音が響き、隣の教室には迷惑をかけたかもしれませんが。
 小説の内容は、人間が虎に変身するという話です。時代は唐の玄宗皇帝の頃、才子の李徴が若くして進士の試験に合格するというところから、始まります。進士の試験がいかに難しかったということを生徒に説明し、合格者の名前が長安の大雁塔に張り出されると教科書の注に載っていたので、中国に旅行した際の西安のパンフレットを見せました。その表紙に、夕日に照らされて建つ大雁塔の写真が掲載されていましたし、合わせて玄宗皇帝が楊貴妃と一緒に入浴したという華清池の写真や、西安郊外にある兵馬傭の写真も載っていましたので、少し解説を加えました。
 李徴は地方官になりましたが、頑固で自尊心が高く、身分の低い役人の地位に満足せず、退官して閉じ込もり詩作に専念して、それで名を成そうとしますが、なかなか果たせません。焦燥感に駆られ、かつては豊頬の美少年だったのが、今は頬もこけ、眼光のみ鋭くなり、生活も窮乏しました。数年して、詩業に絶望し、妻子を養うために、再び地方官に就きます。しかし、かつての同輩が出世して、その命令を聴かなければならないことに耐えられず、自尊心を傷つけられ、心楽しまない日々が続きます。一年後、発狂して、闇の中に駆け出し、行方不明となりますが、彼は虎に変身していました。
 旧友がその虎になった李徴に出会います。人食い虎の李徴が旧友に襲いかかろうとした瞬間、旧友だと気づいてぱっと草むらに隠れます。「あぶないところだった」という虎のつぶやく声を聴いて、旧友はそれが李徴ではないかと思い至り、問うたところ、しばらくしていかにも自分が李徴だと名乗ります。声だけで彼だと気づくところは、いかにも小説的ですが、声優の声を聞き分ける者も私の身近にはいますから、ありえないことではないとこの小説を好意的に解釈しました。
 李徴は草むらの中に隠れたまま、このようになったいきさつを語ります。草むらの中から出ようとしないのは、旧友の前に醜悪な姿をさらしたくないため、及び、相手に畏怖嫌厭の情を起こさせないためですが、片や草むらのそばに立ち、片やその中に隠れたまま、会話を交わすというのは奇妙な光景ではあります。
 

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