日本文学探訪99 井上靖「北の海」1 極楽とんぼの浪人生活・教師が生徒を家に呼んでご馳走

 井上靖の小説「北の海」を読み直しました。「しろばんば」「夏草冬濤」に続く自伝的な小説です。主人公の伊上洪作は、幼い時から伊豆の土蔵でおぬい婆さんと暮らすという特異な経験をしましたが、その時のことを叙情性豊かに描いたのが「しろばんば」です。お婆さんといっても本当の祖母ではなく、曾祖父の妾だった人であり、洪作とは血がつながっていませんが、洪作を育ててくれました。両親はいるものの、父親は軍医であり、各地を転々としており、両親と暮らすことはほとんどありませんでした。
 沼津中学の時代を描いたのが「夏草冬濤」であり、「北の海」は沼津中学を卒業した後、静岡高校の受験に失敗して浪人生活を送るその時代のことが描かれています。
 洪作は極楽とんぼと言われるほど、浪人しても寺に下宿したままぶらぶらして呑気に暮らしています。留年して中学に残った生徒に乞われるままに母校の中学で柔道を教え始めますが、勉強に励むこともありません。両親がいる台北に行くこともないどころか、両親の手紙を読むことすらもしないと小説には書かれていますが、この手紙を読まないなどというところは脚色かもしれないという気がしました。
 中学時代の友達は東京や京都の学校へ行き、離れ離れになります。洪作の身を案じた中学の化学の教師が、洪作を自分の家に呼ぶ場面があります。時代は大正15年ですが、その時代の雰囲気がよく伝わってくるところです。教師も生徒も同じ町に住んでおり、教師が生徒を自分の家に招くのもごく普通に行われていた時代です。洪作はお風呂に入れてもらい、浴衣を着てすき焼きをご馳走になります。
 もっとも、火事の半鐘が鳴ったので、二人してそれを見に行く場面も出てきますが、ここは野次馬根性丸出しであり、さすがに感心した話ではありません。かなり離れたところの火事だということがわかり、また教師の妻の助言もあって、結局、二人は途中で引き返しますが。
 現在でも地方によっては、教師と生徒の結びつきが強いところはあるでしょうし、教師が生徒を家に招いたり、生徒が教師の家を訪ねることはあるかもしれません。私もかつて中学時代、文芸部の顧問だった恩師の家を友達と訪ねたことがあります。私が高校生の時、その恩師が中心となって短歌会が発足し、それがきっかけとなって、私も短歌を詠むということを始めたのですが、その恩師の家での歌会にも何回か出席したことがあります。
 また中学校の担任の先生のところには、大学に合格した時、これも友達と共に報告に家を訪ねました。その時に、その元担任の先生に食事をご馳走になり、また「ハタリ!」という映画を見に連れて行ってもらいましたが、今でもその折のことはよく覚えています。
 「北の海」の洪作が教師の家に呼ばれる場面を読むと、そういう思い出が懐かしく心によみがえってきます。
 
 

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