フランス文学探訪74 「チボー家の人々」1 理性的な医者の兄と、反逆児の弟を軸とした大河小説 

 この三月末で、「ヤフー」のホームページサービス「ジオ・シティーズ」が閉鎖されましたが、そこに掲載していた「フランス文学探訪」の方も拙ブログで順次紹介してゆきたいと思います。

 大学時代にフランス文学を専攻していた時は、フランス文学はまだまだ輝きを放っていたのですが、現在では勢いが衰え、出版されている文庫本や単行本の数は大幅に減ってきています。なんとも寂しいことですが、紹介することで、少しでもフランス文学に興味・関心を持ってもらえれば、幸いです。
 第一回はロジェ・マルタン・デュ・ガールの大河小説「チボー家の人々」です。翻訳・原書を含めて、今まで4回ぐらい読み通しました。何回も読み直しているのは、内容的に深いものがあり、読み直すたびに、新たな発見があるからですし、内容が深いわりに、原文は比較的平易なフランス語で書かれており、読みやすいからでもあります。
 「チボー家の人々」はチボー家の二人息子であるアントワーヌとジャックを軸にしたおよそ十五年にわたる話です。物語はいきなり十四才のジャックの家出から始まります。厳格な父や学校の教師に対しての反抗の家出であり、反抗児としてのジャックの性格は物語の終わりまで変わらず、その反骨精神は詩や小説を書くという文学活動に生かされると共に、やがて労働者運動に彼を駆り立てることになります。ジャックが深い影響を受けた文学作品として、アンドレ・ジイドの「地の糧」が挙げられていますが、この書は自由を謳歌し、反抗の正当性を述べた本であり、彼が傾倒したのも当然のことと思われます。なお、「チボー家の人々」を書いたロジェ・マルタン・デュ・ガールとアンドレ・ジイドは親友であり、その交流ぶりを示す膨大な量の往復書簡が残っています。二人の作家ともノーベル文学賞を受賞しているのも特筆すべきことです。
 ジャックより九才年上のアントワーヌはすでに医者としての仕事を始めており、やがて彼は小児科医として精力的に活動してゆくことになります。アントワーヌは理性的で優秀な人物であり、仕事に生き甲斐を覚え、自分にも大いなる自信を持っています。医者としての多忙な日々にも疲れを覚えることなく、充実感を抱いています。彼は科学に絶対の信頼を置き、父親が宗教活動に熱心なのに比べて、宗教には無関心な姿勢を貫きます。
 アントワーヌは生涯独身でした。彼が唯一、愛したラシェルという謎めいた女性は元の恋人の後を追ってアフリカに去ってしまいますが、アントワーヌは彼女との恋の思い出がいつまでも心の底に残ることになります。しかし、彼は感傷的な人物ではなく、あくまでリアリストであり、聖人君子というわけでもなく、人妻との不倫を続けるなどするのです。
(2003年02月22日 公開)

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