日本文学探訪129 森鴎外の小説「高瀬舟」 安楽死がテーマ・授業で取り上げた際の生徒の感想文

DSCN9456.JPG
 森鴎外の小説「高瀬舟」も、安楽死をテーマにした小説です。鴎外も軍医でしたから、手塚治虫さんの「ブラックジャック」に登場する「ドクター・キリコ」のように瀕死の患者を多く見てきただけに、安楽死の問題を常に考えていたのでしょう。
 この小説は、高瀬舟で罪人を護送する役目を担っている同心の羽田庄兵衛と、弟殺しの罪で遠島になって、大坂まで送られる喜助という人物が登場します。喜助は普通の罪人と違って、晴れやかな様子をしており、神妙でおとなしいのを、不思議に思った庄兵衛が、喜助に声をかけます。喜助は、死刑にならず遠島になったことに対して「お上」に感謝していますし、弟を殺した時の状況を語り始めます。病気を苦に弟がカミソリで自殺をはかったものの、死にきれないでいるのを、兄が見つけると、弟は「苦しい。のどに突き刺さったカミソリの刃を抜いてくれたら楽に死ねる」としきりに頼むので、喜助は見るに見かねて、弟の望み通りにカミソリをのどから抜いてやることによって死なせたところ、それで殺人の罪に問われたというものです。その話に庄兵衛は、これが殺人に当たるのかどうか腑に落ちないというふうに小説は結んでいます。
 この小説は、大阪府立大手前高校に勤務していた時、授業で取り上げたことがありますが、その際、井川比佐志氏の朗読テープを流しました。作品の味わい、雰囲気をよく出している優れた朗読で、その小説世界にすうっと入っていけると思ったからです。内容を押さえて、把握した上で、生徒に感想文を書いてもらい、その感想文に対して、今度は生徒たちに相互批評もしてもらい、私もそれらを読んだうえでコメントを書きましたが、安楽死の問題を深く考えることにつながったように思います。
 多くの生徒は喜助の行為をやむをえないこととして、あるいは当然のこととして是認していました。中には、すぐに医者を呼びに行くべきだったという意見を述べる者もいましたが、あの状況下では、医者を呼びにいく時間的な余裕はなく、また苦しんでいる弟のそばからは瞬時も離れられず、呼んできたにしても、弟を助けることはできなかったのではないかというコメントをしました。
 中には、安楽死と尊厳死を厳密に分けて定義している生徒もいました。辞書では、安楽死と尊厳死は同じ意味で使われていますが、この生徒の場合は、はっきり使い分けをしていました。生命維持装置を使うなどの延命措置を拒否するのが尊厳死であり、それ以外の安楽死は殺人であると明確な定義をしていました。もっとも、完全には論じ切れておらず、結論としても弱いのが難点ですが、深いところまで考えられた文章でした。 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント