漫画探訪28 手塚治虫「三つ目がとおる」1 両面性を持つ写楽・千代子

 この作品の主人公は写楽保介という中学生ですが、言わば2つの顔を持っています。普段は授業に全くついていけない、低学力の生徒であり、授業妨害まがいの行為をして、教師も手を焼いている問題児です。幼稚園児がそのまま学生服を着ている天真爛漫な子とも言えます。
 その彼が額の真ん中に貼ってある絆創膏をはがすと、第3の目が現れ、ぼうっとしていた表情が変わり、目つきが鋭くなって、突然超能力を発揮します。高等数学を一瞬にして理解しますし、手で字を書かなくても頭から強い周波を出して紙に焼き付ける念写もできますし、オーラを出して相手を倒すこともできます。人の脳をところてん状態にする恐ろしい機械を短時間で作り上げるもしますから、決して正義の味方ではなく、むしろ悪魔的な力を発揮する点で、人間にとっては脅威であり、そういう超能力が出せないように、第3の目に絆創膏が貼られているのです。
 その絆創膏を貼ったりはがしたりするのは、専ら同級生の和登千代子という女子の役目ですが、この女子も写楽と同じように両面性を持っている点が光ります。彼女は寺の娘で、美しく、優しいおしとやかな感じがしますが、実際は自分のことを「ボク」と言い、乱暴な言葉遣いも平気でして、けんかも強く、少年達が束でかかってきても負けないほどです。彼女は普段の写楽には何も感じませんが、三つ目になった超人の写楽に魅力を覚え、憧れを抱いています。悪にひかれる危うさも持ち合わせていると言えます。
 登場人物たちを一面的に描かずに、両面性を持たせて幅の広い人物造型をしようとしているのは、いかにも手塚治虫らしい優れたところであり、彼のどの作品でも、そういう要素を大なり小なり持っています。
 ところで、主人公が2つの顔を持つ物語やドラマは昔から少なくありませんが、それが大きく2種類に分かれます。1つは、表の顔も裏の顔も大差なく、言ってみれば、両方とも正義の味方である話です。子供向けテレビ番組の草分け的な存在であった「月光仮面」の正体は祝十郎探偵であり、両者共に格好よい存在で、仮面になった時もそうでない時も実力的には大差ありません。時代劇の「鞍馬天狗」でも、覆面をしていない倉田典膳の時も弱くありません。
 それに対して、全く変わってしまうというパターンのものがあり、「三つ目がとおる」も、そういう範疇に属する作品の典型です。

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