漫画探訪10 手塚治虫  静止画を動的に見せる工夫

 手塚治虫は漫画という静止画を動的に見せる斬新な工夫を行っていますが、その具体例を一つ示します。
 「やけっぱちのマリア」の中の見開き二ページに次のような場面があります。右のページでは、主人公のやけっぱちとヒゲオヤジが派手にけんかをするところを描いていますが、2人の争いの激しさをあらわすのに、敢えて漫画のコマの枠を破って四コマを費やして一つの場面を描写しています。しかもコマの枠の線を曲げたり、裂いたり、裂かれたところをぎざぎさの形にしたりしていますし、「バリッ」「ボキ」「ドカ」という擬音を大きな字にして、絵全体で実にダイナミックな動きに仕上げています。
 左のページでは、その時に、幽霊みたいなものを見たヒゲオヤジが驚きのあまり、階段からころげ落ちる場面を描いていますが、彼の体が枠からすっかりはみだしてしまっています。これはクローズアップする時に、手塚治虫がよく使う方法ですが、はみだすことによって、立体感が生み出され、ヒゲオヤジの姿が、画面から浮き上がって見えるぐらいです。立体映像の走りを漫画の世界で試みているような印象さえ受けます。
 なお、ヒゲオヤジがこの時見たものが、エクトプラズム、すなわち生霊であり、ヒロインのマリアなのです。
 手塚治虫は生涯アニメ映画に情熱を抱いていました。「鉄腕アトム」が日本初のテレビアニメでしたし、彼は漫画で得た収入をアニメーションの制作に惜しみもなく注ぎ込みました。彼はインタビューで次のように言っています。
「止まっている絵を動かすことは、生命のない物に命を吹き込む造物主のような喜びがあります。」
「僕の実験アニメは漫画の収入で作っていますので、よく冗談で、漫画を本妻、アニメを愛人にたとえます。僕が愛人にのめり込むのは、アニメをメタモルフォーズ(変形・変態)を表現できるすばらしい表現手段だからです。形がどんどん変化してゆくメタモルフォーズの面白さ。
 僕は変化の過程を描いて動かすのが楽しくてしようがないのです。僕はアニメーションでメタモルフォーズを追求してゆきます。」

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック