漫画探訪13 「手塚治虫作品における悪の系譜について」3 「七色インコ」

 「七色インコ」は泥棒ですが、その一方でどのような演劇のどのような役であっても、超一流に演じることができる役者でもあります。どのような役でもこなせるということは人の真似をしているばかりで、自分がないという証拠でもあり、そのことで彼は悩みもしますが、泥棒をすることで、自分のアイデンティティを保っているわけです。それはむろん感心した行為ではなく、マイナスのアイデンティティなのですが、不幸なことに、こういう犯罪的なことをして自分らしさを出そうという不埒な人間がいるのも事実です。
 この「七色インコ」のシリーズは、いかに手塚治虫が演劇に対する造詣が深いかよく物語っている作品です。毎回、古今東西の演劇が取り上げられ、その劇と同じような事件なり出来事なりが起こってゆくという内容になっています。ギリシア古典劇から、シェークスピア、近代・現代の演劇に至るまで、全部で五十余りに及ぶ作品が登場しています。この漫画を読むことによって、演劇の勉強もできるという趣向です。
 「七色インコ」は「MW」の結城や「バンパイヤ」のロックのような悪魔的な人物ではなく、もぐりの医者である「ブラックジャック」のようにアウトローではありますが、憎めないキャラクターです。「七色インコ」の読後感は「MW」や「バンパイヤ」などと違って、意外に胸にジーンと来るものが多いのです。「ブラックジャック」と同様、割り切れない思いややるせなさを感じるものもあり、考えさせられる作品もありますが、「七色インコ」や「ブラックジャック」の作品の底に流れているのはヒューマニティの精神であり、クールになり切れない主人公が、七色インコやブラックジャックなのです。
 しかし、手塚治虫が程度の差こそあれ、悪い人物を主人公に持ってくるのは、そういうマイナスの視点からものを見た方が、人間について、社会について、より深い理解ができると考えていたからではないでしょうか。

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