漫画探訪17  横山光輝「三国志」2 黄巾の乱 劉備の人徳と和尚の死の微笑

 60巻に及ぶ横山光輝の「三国志」の最初は黄巾の乱です。その頭領の張角は教祖的な存在であり、漢の乱れた世を直すと言う意味で作られた団体で、当時の腐敗した状況をなんとかしたいという農民たちの不満がそれに凝縮した形です。彼らは黄色のきれを頭にゆわえましたが、旗には「蒼天已(すで)に死す 黄夫当(まさ)に立つべし 歳甲子に在りて 天下大吉」と書かれていました。最後の句の「天下大吉」は石田三成の旗印「大一大万大吉」に通じるものがあります。三成の旗印の「大」は天下の意味だからです。もっとも、三成の旗印の場合は一人がみんなのために、みんなが一人のために命を注げば、平和が訪れるという意味ですから、黄巾の者たちが立ち上がれば世の中がよくなるという、自分たちの正当性を主張することとはまた違います。
 前に貂蝉の微笑んだ死に顔について述べましたが、第1巻ですでに同じような微笑を浮かべて死んでいった和尚が登場します。その和尚が、「三国志」の主人公である劉備玄徳と芙蓉姫を黄巾党から逃したのですが、それは和尚が劉備の顔を見て救世主の相が現れていると知ったからです。和尚は彼らを逃がした後、塔の上から身を投げますが、新しい時代の到来を見越して満足して死んで行ったのです。
 横山光輝は「三国志演義」に基づいて漫画を描いたのでしょうが、この種の先を読んだような描かれ方は、「三国志」全体に満ちています。歴史の結果から見た描写であり、これはこの「三国志」に限った話ではなく、歴史小説やドラマでよく用いられる手法です。今年の大河ドラマ「篤姫」でも、彼女が生まれる前に、「この姫は江戸へ連れて行くぞ」とお告げのようなものを受け、彼女の将来が暗示されていました。
 劉備のこの話でも、嘘くささが感じられます。彼が漢の王室の血を引いていることも和尚は見通すのですが、粗末ななりをしていても、そこに高貴さを感じ取ったというのでしょうか。もっとも、劉備は立派な剣を帯びており、和尚はそれにも目敏く目を付けましたから、劉備をただ者ではないと見抜く一応の妥当性はあります。
 劉備はその時は農民であり、働いてためた金で母親に高価であった茶を買って帰る途中でした。親孝行の人物であることを読者に知らせていますし、また劉備はその人徳によって志ある人々を多く集めることになります。黄巾党につけ狙われ、危なかった時に張飛に救われ、それが縁となって、故郷に帰った劉備が黄巾党に対して挙兵した時、張飛と関羽が加わり、三人は有名な「桃園の誓い」なる義兄弟の契りを結びました。この三人の結びつきの強さが「三国志」のテーマだと言ってもいいぐらいであり、今なお人気が高いのはその点が大きいのです。

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