日本文学探訪97  尾崎放哉の自由律俳句「せきをしてもひとり」 咽頭結核に苦しむ

尾崎放哉の自由律俳句の中で私が一番気に入っているのが「せきをしてもひとり」です。孤独感がにじみ出ている俳句であり、一人きりの生活をしていて、咳をしてもそばには誰もおらずに寂しさを覚えたというような句意です。
 この句は初版では「咳をしても一人」と表記されていますが、再刻版で全部ひらがなになっています。
 咳の程度は軽くても激しくてもこの句は成り立ちますが、「尾崎放哉集 大空」を編んだ萩原井泉水が「初版あとがき」で、咳が放哉を余程苦しめていたらしいと書いています。放哉は結核に冒された上に、風邪をひいて非常に咳をしたために、喉頭に患部を移して喉頭結核になり、腸も侵されて、それが致命傷になったとも書かれています。
 激しい咳をしているのに、助けてくれる者は誰もいず、一層寂寥感に苛まれたのでしょう。もっとも、放哉が一人の生活をしたのは自分の選択であり、39歳の時に、妻と別れて無一物となって托鉢の生活に入り、京都や須磨や福井県小浜の寺などを転々として、最後は小豆島の南郷庵で亡くなりました。享年42歳、大正15年のことです。
 この句に関して、やはり荻原井泉水が次のように評しています。
 「セキヲ、シテモ、ヒトリー三語三節にたたんだるまことに短い形の俳句である。俳句は十七音にしても世界に稀なる短い詩だという。まして、この句は僅かに九字である。しかもこの九字を以って、放哉の全き生活、全き気持がまるぼりにして表現されているのではないか。」と。
 しかし、この俳句は作者を離れて、もっと一般的に捉えることも可能です。一人暮らしを経験した者ならこういう心境はよくわかるでしょうし、家族と暮らしている者であっても、一人部屋にこもっている時など、感じる気持ちです。
 さらに云えば、ここを「くさめ(くしゃみ)してもひとり」と言い換えても俳句は成り立ちますし、他の語でもいけそうな気がします。もっとも、味わいは随分変わってくるでしょうが。
 その点に関して、伊沢元美氏の「俳句シリーズ人と作品8 尾崎放哉」の中で、次のように書かれています。
 「この句の形を真似て『~しても一人』」とやったとて、それはもはや死物である。この句にはなんといっても放哉という人間がまぎれなく息づいている」と。
 一句だけで、作者と切り離して作品を論ずることの難しさが感じられる一方で、自由な解釈が成り立つところが俳句の面白さではないかとも思いました。
 

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