テーマ:日本文学

日本文学探訪90 中島敦「山月記」2 理由もなく生きてゆくのがわれわれ生物の定め

李徴は虎に変身した時の様子を旧友に語ります。初めは自分の目を疑い、次に夢ではないかと思ったが、それが現実だと知った時、彼は茫然として深く恐れました。ここで李徴は自分の人生観、運命観を語ります。理由も分からずに押しつけられたものを受け取って、理由もなく生きてゆくのがわれわれ生物の定めだと言っているのですが、これは李徴ならずとも、人間が…
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日本文学探訪89 中島敦「山月記」1 デーモン小暮さんの朗読・詩で名を成せず虎に変身する主人公

 現代国語の教材として、中島敦の小説「山月記」を扱ったことがあります。授業で5時間ぐらいかかる小説ですが、漢語がたくさん入った格調の高い文章なので、それを少しでも味わってもらおうとして、朗読テープを使いました。それもロック・ボーカリストのデーモン小暮さんの朗読であり、彼の名前を出しただけで、生徒の中からどっと笑いが起こりましたが、朗読は…
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日本文学探訪88  宮沢賢治の小説「なめとこ山の熊」3 熊に許しを請いながら死んでゆく小十郎 

 命を助けられた熊は約束通り、2年後に、小十郎の家の前で死んでいました。小十郎はそれを見て、熊を拝むようにします。猟師として自分がしていることの正当性を失って、罪深さを自覚したわけです。  そんなことがあって、しばらくして、小十郎は家を出る前に、母親に生まれて初めて水に入るのが嫌になったとこぼします。老いを自覚した言葉であり、彼の死を…
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日本文学探訪87  宮沢賢治の小説「なめとこ山の熊」2 猟師は旦那に負ける「狐けん」 

 山では豪儀な小十郎でしたが、町の荒物屋に熊の皮を売りに行く時は、みじめな姿に変貌します。主人に買ってくださいと頭を下げて頼みますが、相手は小十郎の足元を見て要らないと突っぱねます。しかし、本当に要らないのではなく、安く買い叩こうとする作戦です。小十郎の方は、売らないでは生活できませんから、いくら安くてもいいから買ってくださいと懇願しま…
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日本文学探訪86  宮沢賢治の小説「なめとこ山の熊」1 動植物も主人公も山の恩恵を受けている

 宮沢賢治の小説「なめとこ山の熊」を授業で扱ったことがあります。本文朗読は長岡輝子さんのものを使いました。東北弁による彼女の作品朗読は味わいがありますし、生徒も、その朗読に聞き入っていました。通しで流すと、三十分ぐらいかかります。   この小説の主人公淵沢小十郎は、なめとこ山の熊を捕っている猟師です。なめとこ山は実際にある山ですが、川…
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日本文学探訪85 津島佑子「級友」2 喪失感と喜びがない交ぜになって心の整理がつかない状態  

 フグボーのことを今日知ったばかりの「私」は今は混乱状態にあり、「どうしたらいいのかわからなくて」、レポート用紙に書き出しますが、フグボーのことを書き綴っているのでしょうから、それが小説の冒頭部分というわけであり、そういうところにもこの小説の構成の巧みさが現れています。  具体的に「私」がどのように整理のつかない気持ちになっているのか…
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日本文学探訪84  津島佑子「級友」1 昔避けていた級友が本を買い続けてくれていたことを死後に知る

 3年の現代文で津島佑子の短編小説「級友」を扱いました。非常に短い小説であり、「私」のかつての級友であった人物に思いを馳せるという話ですが、時制が錯綜しており(それだけ緻密な構成でよく考えられ練られた作品になっており、書き出しは謎めいていて、その謎が次第に解き明かされるという展開です)、全体を読んで時系列の順序に整理し直す必要があります…
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日本文学探訪83  被災者へのメッセージになっている宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩・「永訣の朝」2

 4月5日付の朝日新聞に、岩手で生まれ育った宮沢賢治の代表作である「雨ニモマケズ」が、東日本大震災の惨禍に打ちひしがれる人たちへのメッセージとして、国内に海外に広がっているという記事が載っていました。渡辺謙さんが「雨ニモマケズ」を読みあげている映像がユーチューブで配信され、小学校の校長が卒業式でこの詩を朗読しました。この詩について、宮沢…
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日本文学探訪82 六草いちか氏「鴎外の恋 舞姫エリスの真実」

 拙ブログで以前、森鴎外の小説「舞姫」に登場するエリスのモデルについての説を以前述べました(「日本文学探訪3~6」『2007年10月31日~11月3日付』)が、今回新説が出ました。その新説を唱えたのは、ドイツに住む女性の六草いちか氏で、「鴎外の恋 舞姫エリスの真実」という本を出版されました。私はまだその本を読んでいないのですが、インター…
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日本文学探訪81 高野悦子「二十歳の原点序章」6 友達とのストレートな衝突・実家でのグウタラな生活

  高野悦子の「二十歳の原点序章」ですが、随分間が空きました。拙ブログ1月26日付の続きです。   立命館大学一回生の高野悦子は友達関係についても赤裸々に書いています。2月7日の日記には、前日眠っていた時に谷崎さん(このあたりの名は実名ではありません)がやってきて、今日の1時ころにやってくるというメモがはさんであったものの、高野悦子は…
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日本文学探訪82 芥川龍之介「鼻」板書事項2 傍観者の利己主義・内供の問題点・逃れられない煩悩

 昨日の続きです(昨日分、一部変更したところがあります)。  第三段落  周囲の者が笑う→ふさぎこむ、不快  傍観者の利己主義に気づく〔自己と同じレベルに達した他者を元の不幸に陥れて自己の優越感を保とうとする〕→鼻が短くなったのが恨めしくなる  第四段落  ある夜 鼻がむずがゆい、熱がある  翌朝 鼻がまた長…
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日本文学探訪81 芥川龍之介「鼻」板書事項1 長い鼻を苦労して短くするまでの主人公の心情 

 芥川龍之介の小説「鼻」を授業で扱った時の板書事項です。短編ですが、全体を四段に分けています。最初、公開したは第二段落の最後に抜けていた箇所がありましたので、付け加えています。また全体のまとめも第四段落まで述べた後に、改めて書くことにしたため、最初公開した前書きの部分は消しましたので、ご了承ください。    第一段落  内供の長い…
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日本文学探訪80 高野悦子「二十歳の原点序章」5 「総括」という言葉・片思いだったことを知った悲しみ

 三浦さん(仮名です)への恋心に燃えている立命館大学1回生の高野悦子ですが、11月16日(1967年)にばったり出くわした三浦さんから、生協の展示を見に来るように誘われるものの、彼女はそっけなく行こうかなと言って通り過ぎます。行くことを考えていたのに、逆にそう言われるとつっけんどんな対応になってしまうのは、男女関係ではよく起こることです…
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日本文学探訪79 長谷川櫂氏「平気ー正岡子規」 「坂の上の雲」にも描かれた絶筆3句2

 拙ブログの1月2日付記事「日本文学探訪76 長谷川櫂氏『平気ー正岡子規』 『坂の上の雲』にも描かれた絶筆3句」の続きです。子規は、2句目を書いて筆を置き、しばらくすると右の余白に「をととひのへちまの水も取らざりき」と書きました。子規は筆を置くことさえ大儀そうに持ったままであり、穂先がシーツに落ちて筆の痕が付いたことを碧梧桐が回想録で書…
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日本文学探訪78 高野悦子「二十歳の原点序章」4 心の振幅の大きさ・理性的な彼と感情的な自分 

 1967年6月27日の日記に、高野悦子はこれからやっていきたい生活として、講義を中心とした読書生活、部落史の研究、町を歩くこと、多くの人との対話を挙げていますが、その一方で見ている岩から飛び降りたら死ねると一瞬思うものの、馬鹿なことを考えるな、弱虫と思い直します。こういう自殺願望は、日記のところどころに顔を出しています。彼女の心の振幅…
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日本文学探訪76 長谷川櫂氏「平気ー正岡子規」 「坂の上の雲」にも描かれた絶筆3句1

  大河ドラマ「坂の上の雲」に正岡子規の死の場面が描かれていました。子規役の香川照之の名演技が光っていましたが、奇しくも昨年の11月頃に授業で正岡子規の死の場面を取り上げたところです。  授業で扱ったのは、長谷川櫂氏の「平気ー正岡子規」であり、正岡子規は悲劇的な面で捉えられることが多く、また俳句の革新者として江戸俳諧から滑稽味を取り…
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日本文学探訪75 高野悦子「二十歳の原点序章」3 大徳寺大仙院住職の昔も今も変わらぬ姿

  高野悦子は立命館大学に入学して1ヶ月後の1967年、5月10日部落問題研究会に入部し、地域の子供会活動に参加しますが、社会問題に対する意識の表れでした。当時のことですから、政治問題や社会問題に関心を持つのは、学生としてごく自然なことであり、私も大学1回生の時、一時期ではありますが、沖縄問題に対する理解を深めるため、大江健三郎の「沖縄…
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石田三成の実像568・日本文学探訪73 谷崎潤一郎「聞書抄」2  捕縛を命じた高札・小幡の切腹 

 この小説では、落ち延びている三成の娘と乳母が瀬田の橋を渡る時、立て札を見ますが、それには三成・宇喜多秀家・島津義弘を捕らえた者には、永代無役にすること、彼らを討ち果たした者には金子百枚を与えること、匿った者は一族・一村にまで処罰することが書かれていました。  白川亨氏の「石田三成の生涯」にも、このようなお触れを田中吉政が出したことが…
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石田三成の実像567・日本文学探訪72   谷崎潤一郎の小説「聞書抄」1 尼になった三成の娘

 谷崎潤一郎の小説「聞書抄」は昭和10年に発表されたものですが、その中に三成の娘で尼になった人が登場し、最初の方では父親の三成が処刑された前後のことがかなり詳しく語られますし、その後は、三成の首がさらされた場所で彼女が出会った盲人の口を通じて秀次との関わりあい、秀次切腹事件のことが述べられるという形を取っています。その盲人は三成の家臣で…
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日本文学探訪71 高野悦子「二十歳の原点序章」2 末川博総長の言葉・メーデーに参加

高野悦子は立命館大学に入学しますが、「二十歳の原点」の方のあとがきを読むと、父親は彼女が京都に行くことに最後まで反対していたことがわかります。東京の大学にも合格していたのですから、立命館に入らなければ娘も命を失わずに済んだという思いが強くありました。父親が書いた「二十歳の原点」のあとがきには、彼女の日記を読んで初めて自分の描いた…
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日本文学探訪70 宮沢賢治「永訣の朝」1 精神的な良き理解者であった妹の死を悼んだ詩

 宮沢賢治の詩「永訣の朝」を今まで3回ほど授業で扱ったことがありますが、長岡輝子さんの朗読テープが効果的でした。妹のトシ子さんの東北弁の台詞は、長岡さんの朗読でないと味わいが出ません。詩の中で四回も繰り返される「あめゆじゅとてちてけんじゃ」という台詞の朗読は生徒にも強烈な印象を与えたようです。  この詩にはわずか二十四才で肺結核でなく…
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日本文学探訪69 高野悦子「二十歳の原点序章」1 早くからの自殺願望・目標の立命館大学合格

 文学作品ではありませんが、高野悦子「二十歳の原点」はかつてよく読まれたベストセラーの本であり、その末尾に書かれた彼女の詩が評価されていることでもあり、日本文学探訪の中に入れました。「二十歳の原点」は立命館大学の学生だった高野悦子が二十歳の誕生日を迎えた1969年1月2日の誕生日から、彼女が鉄道自殺する前々日の6月22日まで綴られた日記…
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推理小説(ミステリー)探訪18 森村誠一「人間溶解」・日本文学探訪68  安部公房「赤い繭」 

 「人間溶解」というのはストレートな題であり、文字通り人間を殺して溶かして完全犯罪を狙う話です。舞台となっているのは皮革会社の実験研究所であり、大きな実験用の水槽がありました。研究所のメンバーはかねてから、研究の手柄を独り占めしている八代に対して憎しみの心を持っていましたし、優子も堀口という恋人がいながら、八代に無理矢理体を奪われて、彼…
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日本文学探訪67 「こころ」の授業5 板書事項4

「私」がKを出し抜いて、「奥さん」を通じて「お嬢さん」にプロポーズをした後の場面であり、その後、Kの自殺という最大の悲劇を迎えます。そういう悲劇を迎える場面を授業で扱う前に、「私」がKを出し抜いて、「お嬢さん」にプロポーズをしたことをどう思うか、生徒に紙に意見を書いてもらいましたが、概して「私」のしたことを批判する意見が多数に上りま…
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日本文学探訪66 「こころ」の授業4 板書3

 夏目漱石「こころ」の板書事項の続きです。  第八段落  Kの善良な人格(羊)につけ込んで彼を打ち倒そうとする私(狼)  K「恋の話はやめよう」  私「やめるだけの覚悟はあるのか」お嬢さんへの恋情をあきらめる覚悟という意味で私は使う。  Kが萎縮して小さくなったような感じー打ちのめされ、力なくうなだれた様子   私は安心…
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日本文学探訪65 「こころ」の授業3 板書二 「こういう状況に立たされたらあなたならどうするか」

 漱石の「こころ」の授業の際の板書事項の続きです。なお、第四段落(「下 先生と遺書」第36回)まで進んだ段階、すなわちKが「私」にお嬢さんへの切ない恋を打ち明けたところまで授業が進んだ段階で、「こういう状況に立たされたらあなたならどうするか」という問いを設けて、生徒それぞれにその答えを紙に書いてもらいました。生徒の答えは、大体二つに分か…
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日本文学探訪64 漱石の「こころ」の授業2 板書事項1

 授業で漱石の「こころ」を取り扱った際の板書事項の一例(いつも一定ではありませんので)を参考のために紹介します。私は最近は専ら小説を扱った際の板書事項は、事実や行為を白チョークで、心理や心情を黄色のチョークで書くという形を取るようにしています。もっとも、行為と心情が渾然となっており、色分けが難しいところもありますが。次に示すのもむろん色…
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日本文学探訪63 夏目漱石の「こころ」の授業1

 今まで現代文の授業で夏目漱石の「こころ」を何回か扱ってきました。どこの出版社の教科書でも、この作品は大体掲載されており、現代文教材の定番になっています。教科書に載っている本文の長さに多少の差はあるものの、三十ページ前後であり、取り上げられている箇所も似たようなもので、それまでのあらすじと、その後のあらすじがついているのが普通です。本文…
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日本文学探訪62  「伊東静雄の恋多き青春日記」・大阪府立住吉高校内にある詩碑

 私はかつて大阪府立住吉高校で13年間国語科教員として勤務していましたが、住吉高校が旧制の住吉中学だった時代に同じく国語科の教員であったのが、詩人の伊東静雄でした。何十年も前の大先輩というわけですが、私が赴任していた時も、伊東静雄の存在は大きなものがありました。在職中に同窓会の創立60年記念事業として校内に伊東静雄詩碑が建てられました。…
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日本文学探訪61 かつて私が浪人時代に日記に書いた漱石の小説「こころ」の感想2 

 19歳の時の日記より~「こころ」の感想(前回の続き)  「先生」は自分一人の胸の中にしまっておくことが、ひいては奥さんまで不幸に巻き込むのを予想できなかったのだろうか。秘密を持った「先生」が何も知らない奥さんと所詮うまくいく道理はないのだ。「先生」は一人でその重荷を背負っているために、ますます動きがとれないようになり、自分を苦しめて…
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